
シリーズでご紹介している、今まで当塾に在籍していた学習障害のあった生徒さん達の実際の指導事例です。
当塾は学習障害専門塾でもなく、普通の学習塾なので、専門家でも何でもない普通の塾長や講師達が試行錯誤・悪戦苦闘しながら体当たりで個性の違う生徒さん達を指導してきた生の声をお伝えしています。
今までのシリーズでお伝えしてきた生徒さん達、色々な事がありました。
↓↓過去記事こちらです↓↓
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今回は私が講師だった頃に出会った小学1年生の女の子Eちゃんの事例です。
<小学1年生で入塾Eちゃん>
Eちゃんは専門家のところへ行っても学習障害はないといわれました。ただ、IQテストで「記憶力に難がある」と断定されたそうです。
原因は低体重で生まれたからとのことでした。(低体重で生まれるとなぜそんなことがおきるのかはよく知りません。)
Eちゃんはとても女の子らしく、優しい素敵な女の子でした。
ただ、体の発達が遅いように見受けられ、体は小さく、しゃべるときも口に唾がたまりやすく、「先生」と発音するときも「ちぇんちぇい」となってしまいました。視力もかなり弱く、指の力も弱かったので、文字を書いたり、細かい事をするのがとても困難でした。
それと、答える時に自信がなくて、先生の顔を見て判断してから答えるクセがあったので、質問をするときはどんな時でも一定の表情を保つように心がけました。
入塾時は1年生で、お母様は塾に通うという事に不安を感じているようだったので、無料体験授業をお母様にも見学していただきました。
体の発達もそうですが、なんとなく精神的にも幼いように感じられたので、初回は私の膝の上にのせて授業をしました。
数字が覚えられないというのが悩みだったそうで、一緒にホワイトボードに絵をかきながら、「2」ならば、2本の脚で立つ動物の絵を描いてもらったりして、緊張をほぐしました。1~10までの数字で特に覚えられなかったのは8と9でした。
どうしても覚えられなかった「8」と「9」を覚えさせた方法
「8と9がどうしてもおぼえられましぇん。。。」ともじもじ言うEちゃん。本人も相当悩んで気にしているようでした。
ここで大事なのは「覚えらない」の意味を把握することでした。
音がわからないのか、形がわからないのか。
Eちゃんは音は「ハチ」「キュウ」と発音していて、どちらが大きいかもわかっていました。でも「8」「9」と数字にされるとどっちがどっちかわからなくなってしまいます。
彼女は形の認識が少し弱いように感じられました。
そこで、8を大きく描いて、何に似ているか聞いたところ、「雪だるま」と言ったので、一緒に8を雪だるまになるよう落書きしました。そして、その雪だるまに私がアテレコをしました。「はじめまして、Eちゃん!」と雪だるま役で会話をすると、Eちゃんも楽しそうに「はじめまして」と挨拶をしてくれます。そして「僕の名前はハチです。」と自己紹介をしたら、「雪だるまのハチさん」と覚えてくれました。
今度は9を大きくかきました。何に似ているか聞いたところ、「風船がしぼんでいる」と言いました。
この時子供の感性はおもしろいなー。と感動してしまいました。たしかにしぼんだ風船のように見えます。

「じゃあ、風船がキューッってしぼんだんだね」
と言ったら、「9」の名前もおぼえてくれました。
そこで、1から10まで大きな声で読みながらホワイトボードに書いてもらったところ、パーフェクトにできました。
ものすごく嬉しそうで、自信をつけたように見えました。
そして入塾を決意してくださり、国語と算数を受講することになりました。
足し算引き算
数字を覚えられたことで少し自信をもってくれたEちゃん。今度は足し算引き算です。なかなか大変でした。しかし、子供は体で覚えたことやインパクトのあることは割と早く覚えてくれるので、今度は教室の床のタイルを使いました。スタートのタイルとゴールのタイルを決め、スタートのタイルにEちゃんを立たせ、足し算をさせます。その数のタイルをゴールまで進んでいきます。「グリコ」「チョコレート」「パイナップル」のゲームみたいな感じですね。
ゴールまでいったらご褒美として休憩をとって、塾の休憩室で5分間ジュースを一緒にのみました。休憩しているつもりのEちゃんは楽しそうにしていましたが、実はこの時ついでに時計を使って足し算の練習をし、時計の読み方も教えました。
「あと〇分で休憩終わりよ、足したらいくつ?」
という風にです。
そんな感じで、ままごとのお店屋さんごっこをしてお金の計算をしたり、とにかく勉強は楽しいという感覚を大事にしてもらうために、色々な工夫をしました。
ご家庭でも宿題を丁寧にみてもうよう協力してもらい、お手伝いもさせるようにお願いしました。
コミュニケーションで足し算引き算時計九九などはおぼえられるからです。
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学年が上がるにつれ、Eちゃんは何度も勉強の壁にぶつかりました。
<国語での特徴>
- 音読では文字を読み飛ばしてしまう。
- 字を小さく書けないので枠からはみ出してしまう。
- 丁寧にゆっくり書いても字が乱雑。
<算数での特徴>
- 形の認識が弱い
- 書く文字が大きすぎてひっ算を余白に書けない
- 書く文字が乱雑で見間違い、計算ミスをする
- 指の力が弱く、ものさし等道具を使って作図ができない。
とにかく算数で困ったのは形の認識と作図でした。
鋭角と鈍角の違いや、異なる図形を判断するのが困難だったので、作図にも影響しました。

( ↑ 左が鋭角:鋭い角 右が鈍角 これが見分けられない)
また、指の力(力加減の操作?器用さ?)が極端に弱く、ものさしで真っすぐに〇cm線を引くということもできませんでした。必ず線を引くまでにものさしがずれてしまい、斜めになったりガタガタしてしまうのです。コンパスもつかえませんでした。
本人は何度も集中してやっていましたが、(集中しすぎるとよだれがたれてしまう)なかなかうまくいかず、コンパスも片手で弱い力でも楽に使えるものを色々探してきて用意しましたが、全てうまくいきませんでした。
唯一、「〇cmの直線を引く」という問題だけはなんとか克服しました。
その方法はまず、長さは気にせずにものさしで長めに直線を一本ひき、あとから〇cmになるまで線を消すという方法がうまくいきました。コンパスもものさしにあてて〇cm分開くということができないので、3cmの半径の円を描くときは長めの直線をものさしで書いて、3cmになるまで消し、その線にコンパスを当てるという方法で開きました。(それでも綺麗に回せないので、円がずれる。。。)
なんとかそれでも小学6年生まで進んだのですが、お母様から通級の相談をされました。
私はその時「通級」というものを知らなかったので、聞いて驚いたのが、「ちょっと授業についていけない子がたまに授業の時間に別の教室へ行き、授業とは関係のないもの(全学年の復習や図工等)をやり、授業がおわったら戻ってくるシステム」ということでした。
また、授業にでていなかったのに、その授業の宿題やプリントは渡されてやってこなければならないとのことでした。
私には、それは「集団授業で面倒な子を省いて先生が楽をする」ためのシステムにしか思えませんでした。(本当によく知らないのでこういう印象をその時もちました。すいません。)
例えばその抜けていた授業のフォローを放課後先生がマンツーマンでしてくれるならば、まだ良いと思いますが、そのフォローがないとどんどん授業にはついていけなくなります。そして学校側は「塾へ行ってください」と保護者に言うそうです。
お母様は通級のシステムを最初によく知らずに言われるがまま受けたそうです。
こちらも学校で「習っていないものが増えていく」とふまえて授業をしていくことにしました。
素直で明るいEちゃんにいじめの影が。。。
Eちゃんも6年生になって、なんとかお勉強はがんばっていましたが、相変わらず道具を使った細かい作業ができないのと、話し方や見た目の幼さは小学校1年生のままのようでした。新たに弟も生まれ、ご家族がEちゃんにつきっきりで勉強をみることも大変になってきました。
そんななか、いつも明るかったEちゃんがだんだんとぼーっとしていたり、暗い時があったので、
「どうしたの?」ときくと、「学校でEだけお友達から仲間外れにされるのよねー。少し寂しいの」というのです。
「そうなんだ。それは嫌ね。ママやパパは知ってるの?」とたずねると、
「ママは『そんなの気にしない方がいいよ』っていうんだけど、頭ではわかっててもやっぱりEは気になっちゃうのよねえ。気にする自分が嫌になっちゃうのよ。」
と気持ちを教えてくれました。
なんとも心が痛かったです。
詳細はわかりませんが、小学校の頃の女子って時々そういうことしますよね?私も仲間はずれにされた経験ありました。私の場合は体がクラスで一番大きく、(態度も)ケンカには自信があったのでなんともありませんでしたが、それでも良い気分ではありませんでした。
Eちゃんは、そういうお友達を嫌うのではなく、気にする自分を嫌になるという、純粋でいじらしい子なのです。
色々励ましの言葉を考えましたが、良い言葉がみつからず、「1年生以来久しぶりに先生の膝に乗りますか?」ときいたら、「え~、いいんですかあ?」と恥ずかしそうに反応してくれたので、「たまにはいいんじゃないですか?」と言ったら、嬉しそうに膝の上に座りました。
そこで「つらかったね。」と言ってぎゅーっと抱きしめだら、Eちゃんはボロボロと大粒の涙を流しました。自分でも6年生だから甘えてはいけないとがまんしていたみたいです。私の腕やスカートに涙がついて、「先生、ごめんなさい」と気を遣うので、「大丈夫だよ。気にしないで、それより誰にも言わないから今いっぱい泣いていいよ。」といったら、声には出さずに静かにたくさん泣いていました。
中学生になって
とうとう中学生になりました。
進学にあたり、中学校からは特別支援学級の打診があったそうですが、以前特別支援学級にいた生徒さんの保護者がとても後悔していたので、塾としてはオススメしない旨をお伝えしました。そのかわり、とても大変な毎日になることもお伝えしました。
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そして、今の神奈川県公立高校の入試システムや私立高校についての説明もこの時にしました。
神奈川県の私立高校では
- 部活動を3年間続ける
- 皆勤賞
- 委員会役員
- 部長
- 英検等各種検定
等、その他にも色々優遇されることが多いからです。他にもバスケ部や吹奏楽部等特定の部活動で良い成績を残すと特待生として奨学金がもらえたり、ほぼ学費が免除されたりします。場合によっては公立よりも学費がかかりません。
「最初から言ってくれればやったのにい!」ということを防ぐために当塾では新中学1年生には保護者にもこの説明は必ずします。
Eちゃんももし学業がうまくいかなくても私立高校なら皆勤賞などで優遇してもらえるチャンスをフルで活用して少しでも行ける学校の選択肢を増やしてほしかったのです。
Eちゃんの異変
中学校生活のスタートはEちゃんにとって大変なものでした。
まず板書がうまくできないので、授業中のノートを十分にとれず、大量の宿題もなかなか終わらず、文字も小さく余白も少ない教科書や問題集に書き込む事も困難でした。
だんだん、暗記が出来なくなってきて、宿題も中途半端なやり方で終わっていたり、(「~であるから。」 と答えようとしているのに 「~であるか」 というように途中まで書いて終わっている)
呼びかけへの反応もさらに薄くなり、問題を考えるときに目をしばしばと瞬きさせる回数が増えていました。
テストも4割~5割で、正直な所、こちらの予想通りだったのですが、小学校でそんな点数を取ったことがなかったので、本人はショックで泣いていました。
解答をみると、最初から丁寧に解いていって、後半の時間がなくなってしまったようで、後半は何もこたえられていませんでした。
手の不器用さも小学校の頃から変わっていないので、丁寧に書こうとすると時間がどうしても足りなくなります。「選択問題だけでも探して先にやる」なんて技は彼女には難しく、テストで内申点を稼ぐのは難しかったです。
では、提出物で巻き返せるかというと、それも難しかったです。理科や数学ではきれいにグラフを描く事ができず、先生が「大事なところは色分けをして」といってもどこが大事か判断がつかず、問題集や教科書ほとんどの文章をマークしてしまい、全ページがピンク色に。。。フリクションのマーカーをつかっていたので、何度もやりなおすうちに教材もノートもぼろぼろになってしまいました。
先生からは提出物をしっかりできていないとみなされ、内申点は「2」に。。。
以前神奈川県公立中学校の内申について書いた過去記事です。↓
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Eちゃんのストレスはかなりのものになっていたと思います。
がんばっているのにできない。
やりたいのにできない。
親も塾の先生もがっかりさせてしまった。
日に日に元気がなくなっていくEちゃん、とうとう宿題もやらなくなってしまいました。
小学校の頃は「お勉強楽しい!」と言っていたのに中学生になって、もう楽しくは感じていなかったでしょう。
<苦渋の決断>
苦渋の決断でしたが、Eちゃん、Eちゃんのお母さんと話し合い、「退塾」ということになりました。
理由は彼女の精神的ストレスを軽減する為です。
もちろん、塾を辞めれば彼女の成績は下がってしまいます。勉強も大変でしょう。
でも、このままでは学校も大変、塾も大変。さらに塾の先生の期待を裏切りたくないというEちゃんの気持ちはただのストレスになってしまいます。
Eちゃんのお母さんには
- とにかく一度塾を辞めて、休ませる方が良い
- でも勉強は大変だから、ころあいをみて、また塾か家庭教師を検討してほしい
- Eちゃんが当塾を大好きという気持ちが、「期待を裏切りたくない」になるとかわいそうなので、別塾の方が今は良いと思う。もちろん当塾に戻りたければいつでも大丈夫
- 高校はこだわらなければ絶対にどんな人でも行けるので、お母さんもEちゃんもそこまでストレスに感じないでほしい
- 別の塾に行っても高校入試などわからないことはいつでも遠慮なく聞いてほしい
- 用がなくてもいつでも塾に遊びに来てほしい
ということを伝えました。そして、別の塾に行く時に参考になるようにEちゃんの苦手分野と今後指導した方が良い事などを書いたお手紙もお渡ししました。
Eちゃん本人には
- Eちゃんが自分にがっかりしても、自分の事をどんなに嫌いになっても先生はEちゃんにがっかりしないしずっと大好きそれは一生変わらない。
- 中学は大変だけれどもう少したてば慣れるから心配しないでほしい
- 学校の先生の言うことをしっかり守ってほしい
- いつでも塾に遊びに来てほしい
ということと、Eちゃんの勉強以外の良い所をたくさん言って(歌が大好き、歌が上手、かわいい、美人さん、小さい子供にやさしい、女の子らしい、敬語がとても上手等他にもたくさん)だから、将来は良いことしかないよ!と伝えました。
実際彼女は今の子供達が使うような「うち」「やばい」「~じゃねえ」などの汚い言葉遣いは一切しない、上品で女の子らしい子でしたし、挨拶もしっかりでき、赤ちゃんをあやすのも得意でしたので、将来保育の仕事などやれることはたくさんあると思いました。
<現在>
現在中3になった彼女は別の集団指導塾に通い、時々当塾に遊びにきてくれます。高校入試のアドバイスなどもしています。そして、遊びに来てくれた時はお互い思い切りハグをします。
私の判断が正しかったのか間違っていたのか、もっと出来た事はなかったかまだ今もできることはないか等、ずっと考えています。
当塾は在籍生徒以外への連絡は一切しませんので、基本的にEちゃんがこちらを頼ってきたときのみのアクションになりますが、いつでも頼ってこれるように今も彼女のカルテと彼女へのアドバイスシートはすぐに出せるように用意してあります。
高校入試を無事乗り切ってほしいです。
(写真:ぱくたそ)